慶びと祝福を原点とする日本文化の象徴「能」。その極められた表現は世界でも高く評価され、「世界無形文化遺産」にも指定されています。寿ぎの物語、祝いの舞いを映した能人形は、ご家宝にかなう珠玉の贈りものです。
永遠の泰平と豊饒を祈願する「儀式能」として格別の位置にあり、神聖視されています。翁に限ってシテは舞台上で面をつけます。千歳、翁、三番叟の三人がそれぞれ厳かにして晴れやかな歌舞をを披露し、寿ぎの時を彩っていきます。これを務める演者は「別火」によって身を清めるのがならわしです。ちなみに、能演の構成は「脇能・神能」をはじめてとして五種に大別されていますが、五番立ての演能の際は「初番目物」よりも先に上演されます。また、神事能や勧進能などの時にも、まずこの「翁」を舞うのが約束事になっています。ちなみに、「翁」は能の原点である翁猿楽の流れをくむものです。
「高砂」の尉(じょう)と姥(うば)を映した能人形です。永遠の和合を祝し、長寿を寿ぐ祝福の運目の代表作として広く知られ、初春や祝賀、結婚披露宴でも度々披露されます。高砂浦を訪れた神主の「高砂と住吉の松は離れて立っているのに、なぜ"相生の松"と呼ぶのか」という問いに、松の精である老夫婦が「たとえ離れていても心は通い合っている」と答えます。
「猩々」は酒を好む中国の想像上の動物です。孝行者の高風の物語の中で猩々が現れ、彼の行いを祝福し、満天の星、煌く月光の下で、汲めども酒が尽きずと目出度く乱舞し、福と徳を授ける様を描いています。赤毛の姿がことのほか晴れやかな効果を高める演目であり、尽きることのない酒壷に永遠の繁栄を象徴させた祝福の贈りものにふさわしい能人形です。
絶世の美女であり、和歌にも通じた才女としても知られた熊野御前は女性の鏡として讃えられています。平宗盛の寵愛を受ける熊野御前はふるさとの老母を思い、花見で訪れた桜花爛漫の清水寺の観世音に手を合わせ、「いかにせん都の桜も惜しけれど馴れし東の花や散るらん」と詠み、宗盛から暇を許されます。桜花の春の華麗な舞に母を思う心が舞い立つ演目です。
大切な羽衣を天人に返した漁夫に、彼女は感謝のしるしとして月の世界の舞を舞い、七彩に煌く宝を降らせます。「羽衣」もまた、広く親しまれてきた寿ぎの能楽の一つです。物語の舞台は三保の松原。うららかな春の景色の中で、天冠を頭につけて麗しい絹の衣をひるがえす舞姿も、天上の世界を語る美しい謡の響き。ことのほか優美で華麗な物語です。