多様な様式をもつ節句人形の中でも、宮廷で育まれた文化を受け継ぐものを「有職ひな人形」と称します。
お顔の彫りから衣装に至るまで、優美華麗な姿が特徴で、ひな人形の正統とされています。
美意識のひときわ高い宮中で愛され、千年余りの時間を経て受け継がれてきたお人形だからこそ、
大切なお子さまの一生を祝うに相応しい美しさ、気高さ、奥深さを備えています。
宮廷文化を継承する「有職雛」が誕生したのは宝暦・明和年間頃で、御所の有職の家柄である京都の山科家・高倉家によって作られたと伝えられています。ひな人形のお顔は「丸顔」と「面長」の二つに分かれていますが、「丸顔」はいにしえの「天児」の姿を受け継ぐもので、「面長」は冠と一体となった「享保雛」などに顕著であり、これが洗練され平安時代にはじまる雅な宮廷文化を受け継ぐ「有職雛」として気品に満ちたお顔になっていきます。その特長は、面長な顔に切れ長な目。そして、静かなお顔からは優雅さが漂います。もちろん、口もとの「京紅」、一本一本を手梳きで結い上げた「おすべらかし(王朝髪)」など、京文化の正統の美が今日に受け継がれています。
平安時代に一つの極みに至る「有職」には日本の美意識が深く息づいており、「有職文様」もまた公家階級の装束、調度品、輿車などに用いられてきました。千年の伝統を受け継いだ平安装束の文様は、その上品な美しさ、雅やかさが特徴です。また、公家の装束は十二単のように、文様よりも色重ねを重視した装いで、絵模様は重ねの下に隠れてしまうことから、整然と繰り返される織りの文様が発達したといわれています。丸、菱、亀甲、立涌といった幾何文様や幾何連続文様が多く、花、蝶、雲、波など優美な形を持つ絵柄を丸や菱型に組み合わせたものが多くみられます。