宮中の儀式、行事、祭礼などにおける衣裳、調度、用具、飲食などをしきたりに基づいて執り行うことを有職といいます。有職は有識とも表したように、「知識が有る」ことを意味しています。ちなみに、「故実」は礼式の手本となる過去の事例を表す言葉です。このように有職は京都の宮廷文化の中で生まれ、千二百年の時を超えて今日まで脈々と受け継がれてきました。日本の心、和の美意識を象徴するのが有職であり、正統の證なのです。
公家については藤原実頼(小野宮流)と藤原師輔(九条流)が有職の祖とされています。もっとも古い儀式書としては「内裏式」「九条年中行事」「禁秘抄」などが残されています。貴族たちも儀式や祭礼に関する決まりごとをこと細かに記し、その知識を受け継いでいきました。中世に入ると公家にならって武家でも有職故実を大切にするようになります。武家故実の書としては「武家名目抄」が代表的です。また、有職家としては伊勢・小笠原の両家が生まれました。